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2004年04月08日
第2話「教育入院」
西宮の主治医に紹介状を2通、書いてもらったので、1通は手近な診療所に持ち込んだ。紹介状に目を通すと、医師曰く
「こりゃ、入院した方がいいですねえ」
「え?」と私。
「教育入院というんですけど、1〜2週間ほど、入院生活を送ってもらってこの間に、糖尿病の患者として、どういう病気なのか、どういう食生活や運動をしたらいいのか、学んでもらうわけです。時間は取れますか?」
早手回しに、この医師は紹介状を書き、いきなり入院の手続きをとりかねない勢いだった。
「でも先生。私は仕事が詰まっているので、そんな時間は取れません」
「そんなこと言っても、健康を保ててこその仕事でしょう。仕事と体とどっちが大事だと思っているんですか。そもそも、きちんと自己管理ができないから、こういう病気になるんでしょう。まず、きちんと自分で病気を治す心構えを持ってもらわないと……」
「でも、ともかく無理です。今月はこれ、来月になればあれと仕事が続きます。代わりを頼める人間もいません。とにかく1週間も入院している時間的な余裕はありません」
「そんなことを言うのなら、勝手にしなさい。私は教育入院を勧めたのだから。それが嫌だというのなら仕方ない。私は手の打ちようがない。せいぜい、体重を減らして、1日1200キロカロリー以下の食事にする。分かりましたか。それを守ることですね」
「ええ、それで結構です。せいぜい、そのように努力します。自己責任で体に気を付けるようにしますから。では」
今、振り返ると、何とも大人げない限りだが、ほとんど喧嘩別れ状態だった。権柄付くのあまりのお互いの遣り取りに、傍らにいた看護師が帰り際に耳元でささやいてくれたほどだった。「水曜日の午前中の先生は、糖尿が専門だから。その日にまた来たらいいと思うわよ」
是非はともかく、ここまでで「糖尿病=通院=教育入院の勧告」という図式ができあがってしまった。親戚にも知人にも糖尿病の患者はいる。彼ら彼女らの生活を見ていると、カロリー制限だの、1単位200キロカロリーで1日6単位だの、七面倒なことを考えなくてはいけなくなるのは目に見えている。そんなのなんて御免蒙りたい話だ。まして、「血糖値が高い」と言われたって、そのころの本人には何の自覚症状もないのだから、そういうことをしなくてはいけないという一念発起をするような切迫感もない。
好きなものを好きなだけ食べてそれで死ぬというのならそれも本望、という考えがアタマをもたげる。それっきりになってしまった。
もちろん、頭の片隅には「糖尿病」の3文字がこびりついているので、糖尿病の闘病記を折りに触れて読んだ。本の中にはこの「入院生活」が如何に認識を新たにするのに役立ったのか、描いていたのも承知した。また、知人がブラジルのアマゾンの原住民が精製しているとかいう怪しげな樹液を飲んだり、あるいは玄米がいいと言われれば炊いて食べたり。このころ、読んだ本の1冊に「糖尿病とは全身が徐々に腐っていくような病気だ」とあったのを鮮明に覚えている。だからといって、何か具体的な対策をとったのか、といわれればそうではない。
振り返ってみると、このころは首筋から背中にかけての肩こりがひどかった。自宅近くの鍼灸によく通っていた。なにを申し立てた訳ではないけど、そこの受診票にはしっかりと書いてあった。「糖尿病の疑い」と。疑いどころではなく、紛れもない糖尿病だったのだが。
でも、静かに、少しずつ体の変調は進んでいた。
投稿者 ageclinic : 23:37