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2004年05月09日
第3話「糖尿列島」
自覚症状がなくても、病状は静かに進行していく。自分が病気と診断されることをどこかで怖がっているというべきか。それでも頭の片隅からは「糖尿病ですよ」と診断された一言は消えるものではなく、知識を得ようとしたり、民間療法に頼ろうとしたり。あがきが続いた。
そんなころに読んだ1冊に角川文庫所収の「糖尿列島」という本があった。新聞記者が糖尿病で倒れて、教育入院をしていくという内容の本。中に記述しているのは、人間は飢餓には強いものの、飽食には対応がうまくできない生き物であるということ、飽食の結果として糖尿病が発症して、全身に合併症が起きて「腐るように」死に至る病気であること、などなど。
中で印象的だったのが教育入院の下りだ。食事管理をされ、綿密なカロリー計算をして日々の食事を摂る生活ぶり。これを読んだだけで、自分にはもう「無理だ」と内心思っていた。
文の中で繰り返し出てくるのが、血糖値。入院中に食事を節制して、これを必死に下げようと努める姿が何人も出てくる。自分もこうなるのかと思いつつ、年に2度の定期健康診断の時だけは、食事をケアして血糖値を下げる小細工をする。健康診断の目をごまかすぐらいなら、何とかできるレベルだった。ごまかしてもそれは一時のこと。それでも強制的に入院させられるような事態だけは避けたい一心だ。どうせ一度は死ぬのだからと諦観に似た言葉を繰り返しつつ、実は何も悟っていないというのはいうまでもない。
民間療法の一種なのだろうか。体調を気にしているのを知った知人がくれたアマゾンの奥地で採集した樹液、というのも飲んだ。アルコールで滲出させているような感じだが、水に溶かして1日1回服用する。1本2万円で取り次いでいるとか聞いた。それから通信販売だけで扱っていた保健指定食品になっている「××茶」を常用したり。何とか自分をごまかそう、という気分だった。
ある時、わきの下に赤い発疹が出ているのに気が付いた。ちょっと痛い。診療所で受診すると「帯状疱疹ですね」。病名は知っているが、確かかなり年かさになってから発症する病気ではないのか。耳を疑いつつ、紹介された皮膚科に行くと、厳格な表情ながら、面白い口調の老医師が言った。「こりゃ帯状疱疹です。真面目に治さないといけないよ。とにかく1週間通って、きちんと注射を受けなさい」。
帯状疱疹というと、要は水疱瘡の後遺症。脊髄の中に生き残っていた水疱瘡のウイルスが体の抵抗力が弱った時に活動を再開するというもの。神経に沿って発症するので発疹の列が帯状に伸びる。「でも、ねえ。ちゃんと健康診断受けているの?」と老医師。「疲れているのか、不摂生か? ともかく、この病気が出るようだと、体力が落ちている証拠なのだから、きちんと検査した方がいいよ」。待合室には、糖尿病への対応とか、その相談を受け付ける旨の張り紙があった。誰でもない、自分自身が本当の原因をうっすらと承知しているだけに、覚悟を決めざるを得ないのかな、という感じだった。
異変は続く。切り傷がいつまでも治らないのだ。「かさぶた」状のものはできるのだが、その下は乾かないまま。肉も盛り上がってこない。最初の内は化膿してしまったかな、と思うくらいだったのが、数カ月治っていないのに気が付く。とある時、指の傷跡を見た知人がこういった。「おまえ、血糖値が高いだろう。そんな風に傷が治らないのは糖尿病の証拠だぞ」と言われた。確かにそうだった。膝頭と右手中指の傷は今年の新年会の帰りに転倒して負ったもの。しかしもう、4カ月は経とうというのに、未だに治らないままだった。自覚症状がないままに、確実に病状が進んでいることを「自覚」せざるをえない、のが現状だった。
投稿者 ageclinic : 2004年05月09日 23:22